あるとき人に私の杖がおしゃれだと褒められた。私は特に足が不自由なわけでもなくいつも杖を携帯しているが、それがおしゃれだと思ったらしい。おしゃれかどうかはさておき、たしかに知らない人から見たらそんな風にも見えるのかもしれない。ただし私はバッグのバッグ部分を取り去るレベルのミニマル偏向(無駄を省く)があるくらいなのでおしゃれで手荷物を増やすほど酔狂ではないのだ。
私が杖を持ち歩くようになったのはコロナ元年の2月だったろうか。その日は雨で早い話が下る階段で転んだのだ。捻挫であったろう。痛くて歩行が困難な事態になった。明らかに松葉づえが必要だった。しかし私はかねてからもっぱら普通の杖に興味があり、個人的な研究課題でもあったのだが日常的な実験には踏み切れずにいた。そして今回はこれを研究するまたとない好機に違いなく、かくして私は翌日から今に至るまで杖上の人となった。初めこそ階段で左右両足、杖のどちらが先に行くかでもめたりもした。だが勝手に慣れていくもので、痛い足をカバーしながら歩けるようになり、そのうち荷重が通常分布に戻るようにほとんど無意識で自動的にリハビリできて完治した。しかしそれ以後杖を持ち歩くという習慣だけが残った。しかしそれはおしゃれではなく、私が杖にマルチツールとしての有用性を見出してしまったからに他ならない。私のようにアクティブに動くうえで杖を補助具として使っている人を見たことはないが、経験上私が考える杖の利点を紹介しよう。
1.座れる。
これは大きい。どこでも安定して座れる。実は椅子を持ち歩いていたような話。1時間くらいなら気にせず杖の上に座っていられる。電車などでもつり革などをつかむことなく座れる。世の中には座面付きの杖などの商品もあるが、そこまでして椅子を持ち歩きたいわけではないのだ。その点、杖でしかなかったものがいきなり椅子になるとなるとそれはもう効率が次元を超えてくる。私はたまたま試行錯誤していたら、あれ?杖に割と普通に座れるぞと気が付いた。どう座り心地をすばやく確保できるかはユーザーの経験と技量による。私の杖はL字型で、ほかのタイプは試したことがないものの、J型は座れるかもしれないがI型はやめた方がいいだろう。注意点として重心の荷重などやり方を間違えると転倒の恐れもあり大変危険である。要はすごく浅く腰かけている状態。それは杖が倒れたとしても踏みとどまれるレベルの座り方。また座るといってもほぼ立姿勢なので特に場所をとるものでもないが、必ず周囲の邪魔にならないことを確認することも重要である。
2.歩くスピードアップ。速さ+1.2~1.3倍くらい。
脚部をかばう杖の突き方と全く違ってくる。かかとで地面を蹴るのと全く同じ感じで杖で蹴って加速する。まさに3本足歩行になる。重心が左足と杖がほぼ同時に地面を蹴り上げ進む3本足歩行モードになり、これが速さの一因だと思われる。また、杖を突くことによって同時に蹴り上げている左足の疲れ軽減にもなるため、速足でも杖なしより無理なく長く歩行できる。その目的上、通常の舗装された路上での使用を前提として、杖の先端がゴムでできていることは必須になる。これは対防犯上の非殺傷の防具(武器)として機能する際にも都合がいい。
3.より安定して早く階段を上れる。速さ+2.0倍くらい。
いわゆる一段飛ばしで登るとき、通常安定するためにやや勢いを要する。つまり、ゆっくり一段飛ばしで登ると不安定になる。ここに杖が第3の足として入り安定に寄与する。そのためより安定して無理なく杖を使って一段飛ばしで階段を登れる。右手に杖を持つ場合、杖は左足と同時に同じ動きをする。
4.座った時に手とスマホの台になる。
これが意外に便利なのだ。
5.身を守る防護具として
暴漢に襲われたとき、相手の向かってくる勢いを利用してカウンターでうまく当てれば力がなくても強烈な非殺傷の突きをお見舞いできる。リーチ上、ナイフにしてもなんにしてもだいたい杖よりは短いであろうから有利。重要なのは相手の隙をついて、初手で狙い澄ました突きを決めることだろう。中空パイプ構造の杖でできる最善の防御=カウンター攻撃、は突きが一番理にかなっている。初手で相手の動きを封じて、逃げるなり拘束したりする。なお、横振りで叩くなどの防衛方法は、歩行用の杖は通常軽く横からの力には弱いので相手の動きを封じられるほどの効果は期待できない。
6.濡れたフロアを歩くとき
濡れたフロアや、そもそも私が転んだ雨の日の下りる階段などは思ったよりも滑りやすく、滑って転倒すれば大けがの恐れもある。このような時に杖があれば大変心強い。